あまりにもバブリーなクルマの話ばかりなので、一度は原点に戻ってみようと思う。
実に恥ずかしながらわたしの最初のクルマについて書きたいと思う。
イタリアに移住するほどのカブレ野郎なので、これまで自分で購入したクルマでイタリア車を絶やしたことはない。それだけは自慢だ。というかバカだ。きっと。
さて、はじめて購入したクルマとは。
ニキ・ラウダが広告に出ているこのクルマ、大好きなベルトーネのマークの入ったクルマ。マルチェロ・ガンディーニのデザインしたクルマ。なによりイタリアのミッドシップというキラーワード。
そしてこのクルマがあったから後にイタリアにまで足を運ぶはめになった。
そのすべてのはじまりがフィアットX1/9だった。
プアマンズフェラーリだとか、水没車が出回ってるとか、いろんなことが囁かれた典型的な怪しい「イタ車」。
バブル真っ只中だとはいえ、若者が乗っているとご近所にいぶかしげられるその出で立ち。
しかし、80年代の若者としてはこのクルマを買わないわけにはいかなかった。
はじめてこのクルマに出会ったのは、都内の今はもう消滅しているイタ車のディーラーだ。忘れもしない、1980年型の並行輸入車だ。今から考えると、輸入されてから10年もたたないような年数で、よくぞあそこまでボロくなったなと思うほど、今の中古車市場ではとんと見かけないような塗装のヤレが目立ったクルマだった。
学生の間にディノかストラトスを買おうと心に決めていた私は、なにはともあれミドシップに慣れるためにこのクルマからイタリア車の冥府魔道に入門することにしていた。
(当時ディノもストラトスも500万でお釣りが来た。前号のオークションの価格を当時のジブンに見せてやりたい。)それこそスーパーカーブームの頃、カウンタックやミウラやBBなどのクルマの一つ下のライン(いや、2つ3つは違うか?)、を無意識のうちに入門車と決めていたのかもしれない。
どこで買おうかとか、どうやって買おうかとか、一体当時何を考えていたのかは全く覚えていない。とにかく、自分の知っているニキ・ラウダが広告をしていたモデルと何となく様子が違うのだが、そんなことはこだわっていなかった。1300ccが1500になって4速が5速になったんだから、悪いはずがないと当時は思っていた。
とにかく、初めてのクルマである。その出会いは鮮烈で、いまだに試乗ではじめの交差点でハンドルを切り曲がったときのことを忘れることができない。
その後ジドウシャの仕事をして、数多のクルマを乗り継いできたが、未だ持ってあの感動に勝るものはない。まさしく「クルマはお尻で回れ」といわんばかりの回頭性。他のどのクルマとも違うそのハンドリングに一発でヤラれた。
かくしてロクに状態も確認せず49万円で購入したX1/9との暮らしがこの日はじまったのだ…。
つづく