1984年製のランチア・ラリー 037ストラダーレが、アメリカ・カリフォルニア州モントレー郡で8月中旬に開催される「ペブルビーチ・オークション」に登場するらしい…。
わずか207台しか製造されなかったうちの1台で、残存数を考えるともっと少ないであろう。このランチア・ラリー。この個体の特筆すべきは高いオリジナル性で、走行距離も、わずか13,000kmに届かないほど。発売後40年以上経過してこの走行距離ですから、箱入り娘だといえるでしょう。

この「ストラダーレ」は、史上最も称賛されたラリーカーの一つである「ランチア・ラリー 037」の公道仕様モデル。
グループBにおけるホモロゲーション取得のために生産されたこのクルマは、いわばランチアのラリー活動のタニマチ、もしくはコレクター向けの車種という立ち位置。
ちなみにこの個体には、整備記録や工具キットも付属するというので、世界有数のコレクターやバイヤーたちが集まるペブルビーチで相当な落札価格になるのは必至でしょう。
ランチア・ラリー 037ストラダーレは1982年のトリノ・モーターショーで発表され、現在でも高い人気と評価を誇ります。
世界ラリー選手権(WRC)参戦のために開発された車にも関わらず、無骨なラリーカーのイメージとは異なり、「最も美しいラリーカー」という称号を得るに至りました。
ベースとなったのはグループ5仕様の「ランチア・ベータ・モンテカルロ・ターボ」で、ライバルである四輪駆動車に打ち勝つため、後輪駆動ながらも高性能を追求して開発されました。

グループBのホモロゲーションを得るには、市販仕様車を最低200台製造する必要があり、その要件を満たすために「ストラダーレ」が誕生しました。(なんで207台だったんでしょうね? よほどリクエストがあったのかもしれません)
シャーシ構造は、中央部がモノコック、前後がチューブフレームという複合構造を採用し、軽量かつ剛性の高い仕上がりとなっています。そこにポリエステル製ボディパネル(ガラス繊維強化)を組み合わせることで、レーシングカーさながらの外観を実現しています。
デザインはピニンファリーナが手掛けましたが、寸法や機能面での制約が多く、彼らの専売特許である優雅さ溢れる感じとは異なり、少々凄みがあるものになっています。
動力源は2.0リッター直列4気筒エンジンで、16バルブ構造、そしてルーツ式スーパーチャージャー「ヴォルメックス」によって低回転域でも俊敏なレスポンスを実現。最高出力は205馬力(7,000rpm)、最大トルクは23kgm(5,000rpm)で、車重1,170kgと軽量なため、0-100km/h加速は7秒以下、最高速度は220km/h超を誇ります。もちろん競技仕様はこれを遥かに上回るスペックです。
1983年には、ワルター・ロールとマルク・アレンの活躍によってランチアがマニュファクチャラーズタイトル(製造者部門)を獲得。最後の後輪駆動優勝マシンとなりました。
ちなみに、ドライバーズタイトルはアウディ・クワトロを駆るハンヌ・ミッコラが制し、以後は四輪駆動車の独壇場になっていきます。
ランチア・ラリー037ストラダーレは、今となっては非常に貴重な存在。
そのロマンチックな経歴と相まって、非常に特異な個性を持った一台といえるでしょう。
実際に運転したことがありますが、機敏でシャープなハンドリング性能は、素体となったランチア・モンテカルロと全く印象が異なります。
本気でラリーを勝つために作られたクルマだから当然なのですが、全長わずか3,890mm、全幅1,850mm、全高1,240mm、ホイールベース2,445mmというコンパクトさと、数値だけ見れば今ではなんてことない馬力ですが、筋肉質でキレキレな走りが堪能できます。
まあ、エンジニアのセルジオ・リモーネが主導し開発、あのダラーラやアバルトといった有名エンジニアリング企業が関わっているので、ある種のイタリア代表選手的な立ち位置。これがやがて、フェラーリの288GTOになり、そしてF40へとつながっていくわけですから、やっぱり特別な一台といえるでしょう…。
新車当時は980万円だったのになあ…。
それではまた近々。
A prestissimo!!